蜀犬 日に吠ゆ

2019-11-23

[][][]言葉が通じるとき、言語はどのような働きをしているか~~西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書 22:02 はてなブックマーク - 言葉が通じるとき、言語はどのような働きをしているか~~西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書 - 蜀犬 日に吠ゆ

 言語学ではなく「認知言語学」への案内書。タイトルにもそう書いてあったのに、つい言語学全体の入門書かと思いこんで読み始てしまいました。読み進めていくと、言語学というのはアプローチの方法によって相反する部分もあり、一概にくくってしまうことの出来ない学問であるようです。

 書いていませんが、おそらく実際のことばを扱う「語学」とも異なる領域を扱っているようです。これはTwitterでそう言っている人もいまして、ああやはり、と思いました。言語学の入門的知識でもあれば語学に役立つかな? という下心をもっていたのですが、そういう風に直接つながっているわけではなさそうです。There is no royal road to learning(.学問に王道(いまでいう高速道路)なし)。

 ただもちろん入門書ですから、はじめに「言語学」全体の説明があります。言語学はまず、言語の歴史的な研究から始まり、その流れをかえたのがソシュールであったということです。つまり、ここで言語学は語学とははっきり分かれたのでしょうか。(p.8~)

西村 (略)現代の言語学は一九一六年に出版されたソシュール(Ferdinand de Saussure)のCours de linguistique générale(邦訳『一般言語学講義』、小林秀夫訳)から始まったと考えてよいと思います。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

 つづき

西村 (略)ソシュールの前にも、言語に関する研究は行われていましたが、これは歴史的な研究が中心でした。ヨーロッパの言語の多くやサンスクリット語の間には系統関係があることが分かってきて、それらの系統関係がどういうものなのかを明らかにすることが言語学の研究の中心的な課題だったのです。音声的な面を含め、共通の起源とされる言語からさまざまな言語がどういうふうに派生していったのか、またここには一定の法則性がみられたので、その法則性を明らかにしていくわけです。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

 本書の話題から少し離れて。世界史(ヨーロッパ史)の流れとしては、中世の学問的言語であるラテン語の存在があり、口語中心である各国ごとは区別されて当然の時代が続きました。キリスト教の世界観でいえば「バベルの塔」の伝説から、異なる国で異なる言語が存在することは神の裁きの結果だと考えられていたのかなあ。そんなところまで教科書には書いていませんけれども。とにかく、言語学と言う言葉は出てきませんね。それで母語ではないラテン語を操るために文法(自由七科の修辞?)の分析や研究が行われましたが、教科書ではこれを言語学という風にはいいませんね。

 12世紀ルネサンスの時期、ビザンツやイスラーム世界から流入したギリシアの古典文化がラテン語の文化を支えているギリシア語にも注意が払われるようになりました。それにあわせて、神の言葉ラテン語ならぬ各国の話し言葉によって伝えられた騎士道物語や叙情詩がジャンルとして認められるようになりました。『ローランの歌』(フランス)、『アーサー王物語』(イギリス)とか。イタリア・ルネッサンスののち、ネーデルラントの「貨狄尊者」エラスムス(15世紀後半~1536)はギリシア語聖書の研究で有名ですが、ラテン語の絶対的優位が揺らぎはじめ、ヨーロッパの言語の共通性や多様性が意識されるようになります。言語には地域による違いと、もちろん時代による違いがあるわけですが、まだ言語学は出てきませんね。

 ロココ・バロックの時代(17~18世紀)をすっとばしていいのか分かりませんが、すっとばして18世紀末。各国に言語学者が現れてヨーロッパの、あるいは植民地の言語を研究するうちにサンスクリット文学研究者のウィリアム=ジョーンズが20世紀インドとヨーロッパ諸語の共通点を指摘し、言語系統の理論化がすすみ、言語学(今は比較言語学と呼ばれる分野)は急速に発展することになりました。しかし語族の分類は現在の教科書ではほとんど扱われなくなり、昔の語族系統一覧表も今は載っていないようです。一部資料集には残っていますが、遠からず消えていくのでしょうね。ジョーンズさんの研究は言語学としてもカウントされなくなってしまうのでしょうか。頭が古いのでセム系だのハム系だの話題に上らなくなっていくのはさみしい。暗記する必要はあるか、といわれたら返す言葉もありませんが。

 ナショナリズムとロマン主義の時代。19世紀にグリム兄弟がドイツの「正しいドイツ語」を追求するため民族の伝統や伝承を収集し、『童話集』を編集します。これが教科書に出てくる言語学者としては最初でしょうか。

 閑話休題。このあたりのことどもが「言語学の研究の中心的な課題」であった、と。

 で、ソシュールですよ。(p.9~)

西村 (略)ソシュールは、それまでの言語学が扱っていたような、時間の流れに沿って捉えられる言語のあり方を「通時態」と呼び、それに対して、同時代的に捉えられる言語のあり方を「共時態」と呼んで、まずは共時的な研究が行われるべきだとします。(略)語句だけで意味をもつということはありえなくて、言語全体を一つの体型として、あるいは一つの構造として、捉えなければいけない。(略)

野矢 なるほど、ソシュールによって初めて「言語」という全体が研究対象として浮かび上がってきた。そういう意味で、「現代の言語学を開始した」と言われるわけですね。つまり、言語学とは、「言語という一つの構造体を研究対象とする学問」である、と。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

 はじめ文法の話かな? と思ってしまいましたがそうではなくて「言語学の対象とする範囲」の話でした。ソシュールといえば「構造」ですが、その内容もさることながら、言語学の扱う範囲を規定したという部分で言語学に与えた影響も見過ごすわけにはいかないのだそうです。自分の感覚からすると分かったような分からないような。日々移ろいゆく「言語」を、ある一点で時間を止めてその全体を見わたして研究対象にするようなイメージを持ちましたが、そんなこと現実問題として可能なのでしょうか。また、この手法ならばどのような言語であっても対象に出来そうで、言語というものの本質に迫ることが出来そうですが、その対象とする「言語」を範囲指定できるものなのでしょうか。さっきの比較言語学ではありませんが、同系統の言語や、通常同じ言語とされる範囲内での「方言」の存在はどうするのか。大変そう。

 というわけで、ソシュールの理論は実態の研究においていくつもの方向に分派し、そのなかから「行動主義心理学」に基づく言語学が生まれます。(p.13)

野矢 行動主義というと、「観察可能な行動だけを扱う」という方法論を採用したわけですか? つまり、こういう状況ではこんな言語行動があったという、第三者的に観察可能なことだけを扱っていく。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

 言語が存在して、誰かが意味をもって発話する。それを聞いた人が意味を理解する。日常的な言語活動、言語という現象です。ところが、チョムスキーがこうした流れに真っ向から反対します。

野矢 スキナー流のやり方だと、刺戟とそれに対する反応だけがあって、ここには規則性があるじゃないか、と言う話で終わってしまう。言語の場合だったら、どういう状況でどういう言語行動をとるか、その規則性だけを取り上げる。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

野矢 「言語の創造性」ということを、もう少し。

西村 チョムスキーがとくに注目したのは、母語の場合であれば、新規にいくらでも適切な文を作り出すことができる、また適切な文であれば、初めての文を読んだり聞いたりしてもきちんと理解できるということでした。原理的には、作り出せる文の数、理解できる文の数には限りがありません。そうした創造性をもたらす仕組みを明らかにしなければいけない。そのためには行動主義では無理だと考え、そして生成文法を創始したわけです。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

 ここに来て、言語学の扱う対象がすこしかわってきました。言語の構造というのが、単語の意味や文法のことではなくて、「意味が伝わる仕組み」に注目するようになったのです。先ほど「日々移ろいゆく「言語」」などと気軽に書きましたが、言語が規則的な構造をもつのであれば、なぜ時代や場所によって変化するのか。常に変化するのであればなぜそれが伝わるのか、ということを研究するのも言語学であるということになります。チョムスキーはその仕組みを生成文法と考えて、「統語論(構文論)syntax」を研究しましたが、そこからまた新たに生まれたのが、認知言語学なのだということになります。

西村 まず、認知言語学が生成文法から受け継いでいる、両者の共通点をもう一度確認しておきましょう。言語習得や言語使用を可能にしている知識のあり方を解明することを目標にし、しかもその言語知識をこころの仕組みの一環として捉える、その点では生成文法も認知言語学も違いはありません。

 そのさい、生成文法では、生成文法では、様々な心の仕組み・機能全体の中で、言語知識は自律したまとまりを成していると考えます。(略)

 それに対して認知言語学は、こういう分け方はできないと考える。つまり、言語の能力は他の心の働きと分かちがたく結びついていて、言語知識がどういうものかを明らかにしようと思ったならば、ふつう私たちが言語的ではないと想定している心の働きまで考慮に入れなければならないと考えたのです。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

 ここまでまだほんの入り口。ですが、言語学の扱う範囲が、「言語が伝わるということ」「言語が存在するということ」の意味を問う言語哲学(こちらは哲学の分野)などに近づいてきた結果、認知言語学が生まれたのだという流れとして受け取りました。

 通して読むと、言語のもたらす作用は、意識してみると複雑であり、ふだんは意識せずに意思疎通の機能を使っていたのだということを思い知らされました。認知下言語学の部分についての感想は、多分のちほど。

西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学』

  • 目次
  • はじめに  i
  • 第1回 「彼女に泣かれた」――認知言語学の誕生  3
    • 間接受身   4
    • 言語学とはどういう学問か  8
    • チョムスキーの革命  11
    • 生成意味論の失敗  15
    • 言語知識と心の働き  20
    • 認知言語学ならではの問題  26
  • 第2回 「太郎が花子に話しかけてきた」――文法は意味と切り離せるか  31
    • 広義の文法と狭義の文法  32
    • 語彙項目  33
    • 文法とは何か  35
    • 文法は意味から自立しているか  38
    • 客観主義の意味論  44
    • 認知主義の意味論  45
    • 「てくる」の意味  50
    • 文法化  54
    • 認知文法と生成文法は成立しているのか
  • 第3回 典型的な鳥と変な鳥がいる――プロトタイプと百科事典的意味論  63
    • カテゴリー化  64
    • 古典的カテゴリー観  65
    • 新しいカテゴリー観  69
    • プロトタイプ意味論  73
    • 言語習得における見本の重要性  76
    • 関東と関西では「肉じゃが」の意味は異なる  79
    • プロトタイプとは何か  81
    • 百科事典的意味論  82
    • 「読む」といってもいろいろある  87
    • 典型的な犬の走り方  90
    • 文法項目のプロトタイプ  93
  • 第4回 「死なれた」のか「死なせた」のか――使役構文の家族的類似性  97
    • 言語学で「使役」と呼ばれるもの  98
    • 自他対応  101
    • 「太郎が窓を開けた」では何が原因なのか  103
    • 英語と日本語における自他対応  105
    • 語彙的使役構文と迂言的使役構文  106
    • 「死ぬ」・「殺す」・「死なせる」  110
    • 「この薬があなたの気分をよりよくさせるだろう」  113
    • 日本語では無生物主語の使役構文は言えないか  116
    • 道具主語の使役構文  118
    • 「花子は風で帽子を飛ばしてしまった」  120
    • 受け身と使役  122
    • 日本人と使役構文  125
    • 使役構文のプロトタイプ  126
    • 無生物主語の使役構文とメタファー  130
    • 道具が行為する  134
    • 意図しない結果への派生  135
    • 何もしないことも行為である  136
  • 第5回 「村上春樹を読んでいる」――メトニミーをどう捉えるか  141
    • こんなのもメトニミーなの?
    • メトニミーと多義性  146
    • 動詞のメトニミー  148
    • 参照点理論  153
    • 所有表現の分析  155
    • メトニミーの一方向性と参照点理論  157
    • フレームと焦点  159
    • パルメニデスなんて指示できません  164
    • タフ構文(This book is difficult to read.)  168
    • 初期の分析  170
    • 認知言語学からの代案  172
    • 「パイプが詰まっている」  175
    • 構文の意味とメトニミー的多義  177
    • 迷惑受身  180
  • 第6回 「夜の底が白くなった」――メタファー、そして新しい言語観へ  183
    • メタファーの事例  184
    • 「私たちの生を支えるメタファー」  187
    • 概念メタファー  191
    • 言語学なのか哲学なのか  194
    • 原理なき創造性  200
    • メタファーの誕生と死  205
    • 言語はつねに「揺らぎ」をもっている  208
  • おわりに  213
  • 付録――対談のひとこま  217
  • さらに学びたい人のための文献案内  228
  • 索引  233
西村義樹 野矢茂樹『言語学の教室』中公新書

2018-11-03

[][][]テレサ・デヴィッド/岡田好恵 訳『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』講談社ブルーバックス 16:27 はてなブックマーク - テレサ・デヴィッド/岡田好恵 訳『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』講談社ブルーバックス - 蜀犬 日に吠ゆ

 環状のプリズムを組み合わせて凸の曲面を造ることで、ランプ(のちにガス灯)の光を一方向に集中させ、巨大灯台の文明を支えたフレネルレンズの物語。

 大航海時代をイギリスが制し、海外植民地を巡ってフランスがそこに争いを挑んだのも、こうした技術の支え、すなわち産業革命の成功があってのことだったという一例。

 アメリカで南北戦争が始まると南部に赴任していた連邦の支局員がすかさず灯台のレンズをはずして持ち去ってしまう話なども愉快でしたね。教科書的には、「南部連合国は、綿花の需要が多いイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国は通商を続行してくれるであろうことを期待していた。しかし、リンカン大統領の奴隷解放宣言などで国際世論は北部に同情したため南部とヨーロッパの通商は滞り、南部の経済は行き詰まった」ような話の流れになるはずですが、実際には、多くの港で灯台が機能を喪失し、危険な港へ近づくこともできない、などという側面もあったのですね。

『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか 時代を超えたフレネルレンズの軌跡』

  • はじめに 3
  • 序章 暗く危険な海に Dark and Deadly Shores 14
    • いかだの上の「地獄の生存競争」
    • 海難事故と灯台
    • 大望を抱いた2人の青年
  • 第1章 それは、一人の男の野望から始まった Dreams of Glory
    • マチュー村の「遊びの天才」
    • いわゆる「オタク
    • 土木技師・フレネルの夢想
    • 光は「粒子」か「波」か
    • 唯一の理解者、現る
    • 暴君ラプラス
    • 師弟の決別
    • 国賊から英雄へ
    • 回折実験の成功
    • すばらしい休暇の使い方
    • チャンス到来
    • 粒子信奉派vs.光波信奉派
    • 信じがたい事実
  • 第2章 「灯台の光」への挑戦 The Flash of Brilliance 60
    • 新生フランス灯台委員会の改革
    • 反射鏡からレンズへ
    • フレネルが発明した特殊なレンズ
    • 製品化が困難を極めた理由
    • 13日の金曜日、決意の公開実験
    • 海のヴェルサイユ宮殿
    • レンズの改良
    • 夜のシャンゼリゼ通りが真昼の明るさに
    • 世界初のフレネルレンズ
  • 第3章 より確かな輝きを求めて The Dream of Total Refraction 117
    • 「灯台マップ」の作成
    • 回転装置の改良
    • 完璧なプリズムを作るには
    • イギリスの灯台事情
    • スコットランドからの注文
    • ライバルの無謀な挑戦
  • 第4章 引き継がれた遺志 Racce to Perfection 117
    • フレネル逝く
    • 亡き兄のために
    • 「もっともすばらしい勝利」
    • フレネルレンズ、ヨーロッパに普及
    • 蒸気機関の登場
    • 熟練職人の競い合い
    • 最後に残った2つの灯台
    • ロンドン万博とパリ万博
    • 嘘をついているのは誰?
      • 灯台守の血
  • 第5章 遅れをとった大国、アメリカ The-American Exception 151
    • 経費削減の鬼
    • 鯨油とアメリカの灯台の運命
    • ルイスが作ったランプ
    • 節約のための愚行
    • ついにアメリカへ上陸
    • エゴイストの嫌がらせ
    • とんでもない代物
    • プレソントンへの逆襲
    • 500ドルで落札された「機械」
    • 変化のきざし
    • 夜8時ちょうどに
    • 合衆国灯台委員会の創設
    • 最高のメンバーが集結
    • 「有用」で「経済的」な光の証明
    • 灯台委員と議員の闘い
    • ”大西洋の墓場”
    • 万博のスター
    • メーカーとの駆け引き
    • 太平洋岸への設置
    • もっとも重要で、もっとも困難な問題
  • 第6章 南北戦争と灯台 Everything Recklessly Broken 222
    • 灯台の明かりが消えた!
    • 発砲準備
    • 戦争が始まる
    • ハッテラス岬灯台、国家の裏切り者
    • とっておきの隠し場所
    • 南北レンズ争奪戦
    • 無法者の一団
    • 西海岸も闇のなか
    • メキシコ湾岸の「アナコンダ作戦」
    • ヘッド・オブ・パッシーズの争い
    • 南軍自爆
    • 戻ってきた光
    • 終戦後に見つかった「お宝」
  • 第7章 黄金時代の到来 The Golden Age 262
    • フランスとイギリスの争い
    • テクノロジーの挑戦
    • 「超輝レンズ」第1号
    • 巨大なレンズを回転させる方法
    • ”黒船”ペリーと日本の灯台
    • ドイツ兵と交わした言葉
    • フレネルが遺したもの
  • 訳者あとがき――日本の灯台の歴史とフレネルレンズ
テレサ・デヴィッド/岡田好恵 訳『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』講談社ブルーバックス

2018-06-16

[][][]ダンテとパスタとナショナリズム~~池上俊一『パスタでたどるイタリア史』岩波ジュニア新書 19:23 はてなブックマーク - ダンテとパスタとナショナリズム~~池上俊一『パスタでたどるイタリア史』岩波ジュニア新書 - 蜀犬 日に吠ゆ

 19世紀は、「国民国家」成立の時代でした。成立の経緯は、それぞれの国によって異なりますが、結局、ヨーロッパの人々は、「言語、宗教、文化、価値観などを共有できると信じられる人と形成する国家」を選択しました。

 その時、特に重要視されたのは「言語」で、要するに「話せば分かる」相手が仲間、そうでなければ敵、という分断が行われたのです。しかしながら、同じ言語でも方言はあり、異なる言語でも似通っている部分はあります。ヨーロッパは特に。そういう中で、どのように言語は区切られたのでしょうか。

私の理解している一般的な説明(出典なし)としては、

  1. ヨーロッパ全体の傾向として
    1. グーテンベルクの印刷術が広まるにつれて、標準語や正書法が意識されるようになった
  2. イギリス
    1. 「ジョージ王欽定訳聖書」が各家庭に普及し、英語の標準形とみなされるようになった。
  3. フランス
    1. パリの「オウル系フランス語」とプロヴァンスの「オック系フランス語」があったが、アルビジョワ十字軍で南仏の有力者を殲滅したのでパリ方言を強制できた
    2. アカデミー・フランセーズで標準フランス語を定めた。
    3. フランス・ドーデ・ショウ
  4. ドイツ
    1. グリム兄弟が標準ドイツ語の辞典を作成(童話の蒐集はその手段)して「ドイツ民族」意識を高揚した
  5. イタリア
    1. 国民的文学、ダンテの『神曲』がトスカナ地方の方言を標準イタリア語として意識させた
  6. 日本
    1. 二葉亭四迷
    2. NHK

etc.あたりを

が、このまえ読んだ本で、イタリアの話にまたあらたなエピソードが追加されました。

  • 第4章 地方の名物パスタと国家形成
    • リソルジメントへの流れ

ナポリを解放したときガリバルディは「諸君、マッケローニこそ、イタリアを統一するものになるであろう」と高らかに宣言したといいます。

http://katawareboshi01.g.hatena.ne.jp/:=
  • 第4章 地方の名物パスタと国家形成
    • 料理の「平等」とレシピによる「言語教育」

アルトゥージの「改革」は、「食」だけでなく「言語」の改革でもあったと指摘するのは、ピエロ・カンポレージという著名な文化史家です。じつはイタリア統一時に「イタリア語」を話せるのは、二・五%にすぎなかった、という計算があるように、当時はほとんどの人が「方言」を話し、イタリア人同士でもコミュニケーション不能で、まるで外国人と話しているかのようだったのです。

(中略)

 アルトゥージの料理本が生まれたのはまさにこの時期だったのですが、彼はなんと、料理を紹介する中で、ささやかな言語教育を組み込んだのでした。アルトゥージは、トスカーナ語、方言、専門語、卑語、女性言葉などを皆、「イタリア語」に移植して馴化(じゅんか)させる、という道を選び、(統一)イタリア語と地方の方言の橋渡しの役割を果たそうとしたのです。方言によるバラバラな呼称をイタリア語に訳して、料理における言語の合理化、統一化を達成しようとしたのです。

 彼の選んだ共通のイタリア語とは、(半ば)フィレンツェ語、(半ば)ローマ語を基礎にしている、農民たちの麗しい言語でした。アルトゥージは、ある地方の言語によって独占支配されるのではなく、各地方の言語が共存しているような料理の世界、料理の言語空間を好んだのです。

(中略)

 彼はまた、前代に、宮廷に集う貴族や彼らに仕える料理人たちが、フランス由来の新規な用語法を崇めていた傾向を、よしとしませんでした。変なフランス語名やフランス語の翻訳を、なにやらわからない混合語ではなく、家庭料理の用語の「純化」に務め、すべてのイタリア人にたやすく理解できる料理名・素材名を、イタリア各地から探し出してきて、自身の料理書のレシピを書いていったのです。

http://katawareboshi01.g.hatena.ne.jp/:=

 確かに、ダンテ『神曲』を「国民的文学」と読んでもいいのでしょうが、庶民の言葉を劇的に変えたとは思えませんでしたから、産業革命で田舎から都市に集まった人々がレシピ本を求め、その言葉が多様な方言の入り交じる中で共通の言葉となっていったというのは分かりやすい。

2015-04-07

[][][]パリの爆笑 21:40 はてなブックマーク - パリの爆笑 - 蜀犬 日に吠ゆ

 だからこの構図は何なのか!

2015-04-06

[][][][]ナポレオン3世、、、あなたという人は~~森田崇『アバンチュリエ』講談社 20:10 はてなブックマーク - ナポレオン3世、、、あなたという人は~~森田崇『アバンチュリエ』講談社 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ルパン漫画。

 第一コマが、ありきたりなのですがすごく好きなのです。ノートルダム大聖堂のガーゴイルからエッフェル塔というのはパリを代表する景観といっても過言ではなく、よりによって雨樋にガーゴイルを付けてしまったせいでこれからドラマが始まる予感がビンビンします。ハリウッドや日本の漫画を想定に入れてナポ3やパリ市長オスマンが再開発したとするなら、ものすごすぎます。

 富士山だの、東京タワーだの、登るものではないのですよね。葛飾北斎は富士山に登っていないはず(霊峰だし)。東京タワーのベストショットって、どこなのでしょう。

2015-04-04

[][]トマス=ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫 18:55 はてなブックマーク - トマス=ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

はしがき

 もしかりに、私たちの財産をふやしたり社会的な地位を高めてくれたりしてくれるような知識だけが有益の名に価するものだとしたら、神話にはその名を要求する権利はありません。しかし、私たちをもっと幸福にそしてもっと立派にしてくれるものを有益の名で呼ぶことができるならば、神話は有益なものであると言わなければなりません。

トマス=ブルフィンチ/大久保博訳『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫
ギリシア・ローマ神話 上 目次
  • はしがき 10
  • 神々と英雄たちの物語
    • 第1章 はじめに 19
    • 第2章 プロメーテウスとパンドーラー 41
    • 第3章 アポローンとダブネー、ピューラモスとティスベー、ケパロスとプロクリス 57
    • 第4章 ヘーラーとその恋敵のイーオーとカリストー、アルテミスとアクタイオーン、レートーと農夫たち 77
    • 第5章 パエトーン
    • 第6章 ミダース、バウキスとピレーモーン 113
    • 第7章 ペルセポネー、グラウコスとスキュラ 127
    • 第8章 ピュグマリオーン、ドリュオペー、アプロディーテーとアドーニス、アポローンとヒュアキントス 147
    • 第9章 ケーユクスとアルキュオネー、かわせみの話 161
    • 第10章 ウェルトゥムヌスとポーモーナ 175
    • 第11章 エロースとプシューケー 185
    • 第12章 カドモス、ミュルミドーン 207
    • 第13章 ニーソスとスキュラ、エーコーとナルキッソス、クリュティエー、ヘーローとレアンドロス 219
    • 14章 アテーナー、ニオベー 237
    • 第15章 グライアイ、白髪の処女たち、ペルセウス、メドゥーサ、アトラース、アンドロメダー 255
    • 第16章 怪物――ギガンテス、スピンクス、ペーガソスとキマイラ、ケンタウロス、ピュグマイオイ、グリュプス 269
    • 第17章 黄金の羊の毛皮、メーディア 283
    • 第18章 メレアグロスとアタランテー 299
    • 第19章 ヘーラクレース、ヘーベーとガニュメーデース 311
    • 第20章 テーセウス、ダイダロス、カストールとポリュデウケース 325
    • 第21章 ディオニューソス、アリアドネー 341
    • 第22章 田園の神々――エリュシクトーン、ロイコス
      • 水の神々――カメーナイ、風 353
    • 第23章 アケローオスとヘーラクレース、アドメートスとアルケースティス、アンティゴネー、ペーネロペー 375
    • 第24章 オルペウスとエウリュディケー、アリスタイオス、アムピーオーン、リノス、タミュリス、マルシュアース、メラムプース、ムーサイオス 391
    • 第25章 アリーオーン、イービュコス、シモーニデース、サッポー 409
    • 第26章 エンデュミオーン、オーリーオーン、エーオースとティートーノス、アーキスとガラテイア 427
    • 読書案内 上
トマス=ブルフィンチ/大久保博訳『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫