蜀犬 日に吠ゆ

2018-11-03

[][][]テレサ・デヴィッド/岡田好恵 訳『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』講談社ブルーバックス 16:27 はてなブックマーク - テレサ・デヴィッド/岡田好恵 訳『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』講談社ブルーバックス - 蜀犬 日に吠ゆ

 環状のプリズムを組み合わせて凸の曲面を造ることで、ランプ(のちにガス灯)の光を一方向に集中させ、巨大灯台の文明を支えたフレネルレンズの物語。

 大航海時代をイギリスが制し、海外植民地を巡ってフランスがそこに争いを挑んだのも、こうした技術の支え、すなわち産業革命の成功があってのことだったという一例。

 アメリカで南北戦争が始まると南部に赴任していた連邦の支局員がすかさず灯台のレンズをはずして持ち去ってしまう話なども愉快でしたね。教科書的には、「南部連合国は、綿花の需要が多いイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国は通商を続行してくれるであろうことを期待していた。しかし、リンカン大統領の奴隷解放宣言などで国際世論は北部に同情したため南部とヨーロッパの通商は滞り、南部の経済は行き詰まった」ような話の流れになるはずですが、実際には、多くの港で灯台が機能を喪失し、危険な港へ近づくこともできない、などという側面もあったのですね。

『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか 時代を超えたフレネルレンズの軌跡』

  • はじめに 3
  • 序章 暗く危険な海に Dark and Deadly Shores 14
    • いかだの上の「地獄の生存競争」
    • 海難事故と灯台
    • 大望を抱いた2人の青年
  • 第1章 それは、一人の男の野望から始まった Dreams of Glory
    • マチュー村の「遊びの天才」
    • いわゆる「オタク
    • 土木技師・フレネルの夢想
    • 光は「粒子」か「波」か
    • 唯一の理解者、現る
    • 暴君ラプラス
    • 師弟の決別
    • 国賊から英雄へ
    • 回折実験の成功
    • すばらしい休暇の使い方
    • チャンス到来
    • 粒子信奉派vs.光波信奉派
    • 信じがたい事実
  • 第2章 「灯台の光」への挑戦 The Flash of Brilliance 60
    • 新生フランス灯台委員会の改革
    • 反射鏡からレンズへ
    • フレネルが発明した特殊なレンズ
    • 製品化が困難を極めた理由
    • 13日の金曜日、決意の公開実験
    • 海のヴェルサイユ宮殿
    • レンズの改良
    • 夜のシャンゼリゼ通りが真昼の明るさに
    • 世界初のフレネルレンズ
  • 第3章 より確かな輝きを求めて The Dream of Total Refraction 117
    • 「灯台マップ」の作成
    • 回転装置の改良
    • 完璧なプリズムを作るには
    • イギリスの灯台事情
    • スコットランドからの注文
    • ライバルの無謀な挑戦
  • 第4章 引き継がれた遺志 Racce to Perfection 117
    • フレネル逝く
    • 亡き兄のために
    • 「もっともすばらしい勝利」
    • フレネルレンズ、ヨーロッパに普及
    • 蒸気機関の登場
    • 熟練職人の競い合い
    • 最後に残った2つの灯台
    • ロンドン万博とパリ万博
    • 嘘をついているのは誰?
      • 灯台守の血
  • 第5章 遅れをとった大国、アメリカ The-American Exception 151
    • 経費削減の鬼
    • 鯨油とアメリカの灯台の運命
    • ルイスが作ったランプ
    • 節約のための愚行
    • ついにアメリカへ上陸
    • エゴイストの嫌がらせ
    • とんでもない代物
    • プレソントンへの逆襲
    • 500ドルで落札された「機械」
    • 変化のきざし
    • 夜8時ちょうどに
    • 合衆国灯台委員会の創設
    • 最高のメンバーが集結
    • 「有用」で「経済的」な光の証明
    • 灯台委員と議員の闘い
    • ”大西洋の墓場”
    • 万博のスター
    • メーカーとの駆け引き
    • 太平洋岸への設置
    • もっとも重要で、もっとも困難な問題
  • 第6章 南北戦争と灯台 Everything Recklessly Broken 222
    • 灯台の明かりが消えた!
    • 発砲準備
    • 戦争が始まる
    • ハッテラス岬灯台、国家の裏切り者
    • とっておきの隠し場所
    • 南北レンズ争奪戦
    • 無法者の一団
    • 西海岸も闇のなか
    • メキシコ湾岸の「アナコンダ作戦」
    • ヘッド・オブ・パッシーズの争い
    • 南軍自爆
    • 戻ってきた光
    • 終戦後に見つかった「お宝」
  • 第7章 黄金時代の到来 The Golden Age 262
    • フランスとイギリスの争い
    • テクノロジーの挑戦
    • 「超輝レンズ」第1号
    • 巨大なレンズを回転させる方法
    • ”黒船”ペリーと日本の灯台
    • ドイツ兵と交わした言葉
    • フレネルが遺したもの
  • 訳者あとがき――日本の灯台の歴史とフレネルレンズ
テレサ・デヴィッド/岡田好恵 訳『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』講談社ブルーバックス

2018-06-16

[][][]ダンテとパスタとナショナリズム~~池上俊一『パスタでたどるイタリア史』岩波ジュニア新書 19:23 はてなブックマーク - ダンテとパスタとナショナリズム~~池上俊一『パスタでたどるイタリア史』岩波ジュニア新書 - 蜀犬 日に吠ゆ

 19世紀は、「国民国家」成立の時代でした。成立の経緯は、それぞれの国によって異なりますが、結局、ヨーロッパの人々は、「言語、宗教、文化、価値観などを共有できると信じられる人と形成する国家」を選択しました。

 その時、特に重要視されたのは「言語」で、要するに「話せば分かる」相手が仲間、そうでなければ敵、という分断が行われたのです。しかしながら、同じ言語でも方言はあり、異なる言語でも似通っている部分はあります。ヨーロッパは特に。そういう中で、どのように言語は区切られたのでしょうか。

私の理解している一般的な説明(出典なし)としては、

  1. ヨーロッパ全体の傾向として
    1. グーテンベルクの印刷術が広まるにつれて、標準語や正書法が意識されるようになった
  2. イギリス
    1. 「ジョージ王欽定訳聖書」が各家庭に普及し、英語の標準形とみなされるようになった。
  3. フランス
    1. パリの「オウル系フランス語」とプロヴァンスの「オック系フランス語」があったが、アルビジョワ十字軍で南仏の有力者を殲滅したのでパリ方言を強制できた
    2. アカデミー・フランセーズで標準フランス語を定めた。
    3. フランス・ドーデ・ショウ
  4. ドイツ
    1. グリム兄弟が標準ドイツ語の辞典を作成(童話の蒐集はその手段)して「ドイツ民族」意識を高揚した
  5. イタリア
    1. 国民的文学、ダンテの『神曲』がトスカナ地方の方言を標準イタリア語として意識させた
  6. 日本
    1. 二葉亭四迷
    2. NHK

etc.あたりを

が、このまえ読んだ本で、イタリアの話にまたあらたなエピソードが追加されました。

  • 第4章 地方の名物パスタと国家形成
    • リソルジメントへの流れ

ナポリを解放したときガリバルディは「諸君、マッケローニこそ、イタリアを統一するものになるであろう」と高らかに宣言したといいます。

http://katawareboshi01.g.hatena.ne.jp/:=
  • 第4章 地方の名物パスタと国家形成
    • 料理の「平等」とレシピによる「言語教育」

アルトゥージの「改革」は、「食」だけでなく「言語」の改革でもあったと指摘するのは、ピエロ・カンポレージという著名な文化史家です。じつはイタリア統一時に「イタリア語」を話せるのは、二・五%にすぎなかった、という計算があるように、当時はほとんどの人が「方言」を話し、イタリア人同士でもコミュニケーション不能で、まるで外国人と話しているかのようだったのです。

(中略)

 アルトゥージの料理本が生まれたのはまさにこの時期だったのですが、彼はなんと、料理を紹介する中で、ささやかな言語教育を組み込んだのでした。アルトゥージは、トスカーナ語、方言、専門語、卑語、女性言葉などを皆、「イタリア語」に移植して馴化(じゅんか)させる、という道を選び、(統一)イタリア語と地方の方言の橋渡しの役割を果たそうとしたのです。方言によるバラバラな呼称をイタリア語に訳して、料理における言語の合理化、統一化を達成しようとしたのです。

 彼の選んだ共通のイタリア語とは、(半ば)フィレンツェ語、(半ば)ローマ語を基礎にしている、農民たちの麗しい言語でした。アルトゥージは、ある地方の言語によって独占支配されるのではなく、各地方の言語が共存しているような料理の世界、料理の言語空間を好んだのです。

(中略)

 彼はまた、前代に、宮廷に集う貴族や彼らに仕える料理人たちが、フランス由来の新規な用語法を崇めていた傾向を、よしとしませんでした。変なフランス語名やフランス語の翻訳を、なにやらわからない混合語ではなく、家庭料理の用語の「純化」に務め、すべてのイタリア人にたやすく理解できる料理名・素材名を、イタリア各地から探し出してきて、自身の料理書のレシピを書いていったのです。

http://katawareboshi01.g.hatena.ne.jp/:=

 確かに、ダンテ『神曲』を「国民的文学」と読んでもいいのでしょうが、庶民の言葉を劇的に変えたとは思えませんでしたから、産業革命で田舎から都市に集まった人々がレシピ本を求め、その言葉が多様な方言の入り交じる中で共通の言葉となっていったというのは分かりやすい。

2015-04-07

[][][]パリの爆笑 21:40 はてなブックマーク - パリの爆笑 - 蜀犬 日に吠ゆ

 だからこの構図は何なのか!

2015-04-06

[][][][]ナポレオン3世、、、あなたという人は~~森田崇『アバンチュリエ』講談社 20:10 はてなブックマーク - ナポレオン3世、、、あなたという人は~~森田崇『アバンチュリエ』講談社 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ルパン漫画。

 第一コマが、ありきたりなのですがすごく好きなのです。ノートルダム大聖堂のガーゴイルからエッフェル塔というのはパリを代表する景観といっても過言ではなく、よりによって雨樋にガーゴイルを付けてしまったせいでこれからドラマが始まる予感がビンビンします。ハリウッドや日本の漫画を想定に入れてナポ3やパリ市長オスマンが再開発したとするなら、ものすごすぎます。

 富士山だの、東京タワーだの、登るものではないのですよね。葛飾北斎は富士山に登っていないはず(霊峰だし)。東京タワーのベストショットって、どこなのでしょう。

2015-04-04

[][]トマス=ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫 18:55 はてなブックマーク - トマス=ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

はしがき

 もしかりに、私たちの財産をふやしたり社会的な地位を高めてくれたりしてくれるような知識だけが有益の名に価するものだとしたら、神話にはその名を要求する権利はありません。しかし、私たちをもっと幸福にそしてもっと立派にしてくれるものを有益の名で呼ぶことができるならば、神話は有益なものであると言わなければなりません。

トマス=ブルフィンチ/大久保博訳『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫
ギリシア・ローマ神話 上 目次
  • はしがき 10
  • 神々と英雄たちの物語
    • 第1章 はじめに 19
    • 第2章 プロメーテウスとパンドーラー 41
    • 第3章 アポローンとダブネー、ピューラモスとティスベー、ケパロスとプロクリス 57
    • 第4章 ヘーラーとその恋敵のイーオーとカリストー、アルテミスとアクタイオーン、レートーと農夫たち 77
    • 第5章 パエトーン
    • 第6章 ミダース、バウキスとピレーモーン 113
    • 第7章 ペルセポネー、グラウコスとスキュラ 127
    • 第8章 ピュグマリオーン、ドリュオペー、アプロディーテーとアドーニス、アポローンとヒュアキントス 147
    • 第9章 ケーユクスとアルキュオネー、かわせみの話 161
    • 第10章 ウェルトゥムヌスとポーモーナ 175
    • 第11章 エロースとプシューケー 185
    • 第12章 カドモス、ミュルミドーン 207
    • 第13章 ニーソスとスキュラ、エーコーとナルキッソス、クリュティエー、ヘーローとレアンドロス 219
    • 14章 アテーナー、ニオベー 237
    • 第15章 グライアイ、白髪の処女たち、ペルセウス、メドゥーサ、アトラース、アンドロメダー 255
    • 第16章 怪物――ギガンテス、スピンクス、ペーガソスとキマイラ、ケンタウロス、ピュグマイオイ、グリュプス 269
    • 第17章 黄金の羊の毛皮、メーディア 283
    • 第18章 メレアグロスとアタランテー 299
    • 第19章 ヘーラクレース、ヘーベーとガニュメーデース 311
    • 第20章 テーセウス、ダイダロス、カストールとポリュデウケース 325
    • 第21章 ディオニューソス、アリアドネー 341
    • 第22章 田園の神々――エリュシクトーン、ロイコス
      • 水の神々――カメーナイ、風 353
    • 第23章 アケローオスとヘーラクレース、アドメートスとアルケースティス、アンティゴネー、ペーネロペー 375
    • 第24章 オルペウスとエウリュディケー、アリスタイオス、アムピーオーン、リノス、タミュリス、マルシュアース、メラムプース、ムーサイオス 391
    • 第25章 アリーオーン、イービュコス、シモーニデース、サッポー 409
    • 第26章 エンデュミオーン、オーリーオーン、エーオースとティートーノス、アーキスとガラテイア 427
    • 読書案内 上
トマス=ブルフィンチ/大久保博訳『ギリシア・ローマ神話』(上)角川ソフィア文庫

2015-02-09

[][][][]十字軍研究の今 16:51 はてなブックマーク - 十字軍研究の今 - 蜀犬 日に吠ゆ

『西洋中世史研究入門』名古屋大学出版会より

(1)十字軍運動
十字軍とは何か

特に日本においてのことであるが、「十字軍とは、聖地エルサレムの奪回を目的としたキリスト教徒の軍隊であり、7回ないし8回行われたが、徐々に当初の宗教的目的が薄れて最終的には13世紀にその終焉を迎える」といった類の教科書的記述を十字軍の理解の前提にしないことが必要である。

『西洋中世史研究入門』名古屋大学出版会

 次に世界史の教科書が大きく変わるとすればこのあたり、らしいです。

(1)十字軍運動
十字軍とは何か

複雑極まりない十字軍研究の現状においても、概ね次の点では共通見解を得ていると言えよう。十字軍の本質は贖罪にあり、十字軍に「宗教的、政治的、経済的云々」と現代的価値観に基づいた評価を下すのは歴史学的には意味をなさないこと、十字軍とは連続的な運動であり、「第○回」という表現は便宜的に付けられているに過ぎないこと、1274年のリヨン普遍教会会議に十字軍運動の前・後期の分岐点を置くことなどである。教科書的記述の問題点については、八塚春児(1994*1)でも指摘されており、教科書の記述は書き改められるべき時期を迎えているのではなかろうか。

『西洋中世史研究入門』名古屋大学出版会

 というご意見もわかりますが、十字軍の研究が複雑化してテーマも多岐にわたって広がり続けている現状では、十字軍の記述を改める時期とは言いがたいのではないでしょうか。総括的な研究成果が出されてから教科書の記述を書き改めるのがよいかと思われます。

*1:八塚春児(1994)「第1回十字軍の招集」『歴史と地理』471