蜀犬 日に吠ゆ

2010-09-26

[][][]孫子を読む 作戰篇(その4) 20:48 はてなブックマーク - 孫子を読む 作戰篇(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

兵は勝つことを貴ぶ。久しきを貴ばず

作戰篇

故兵貴勝、不貴久、故知兵之將、生民之司命、國家安危之主也、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 故に兵は勝つことを貴ぶ。久しきを貴ばず。故に兵を知るの将は、民の司命、国家安危の主なり。


 以上のようなわけで、戦争は勝利を第一とするが、長びくのはよくない。以上のようなわけで、戦争(の利害)をわきまえた将軍は、人民の生死の運命を握るものであり、国家の安危を決する主宰者である。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 戦争は国の大事です。戦争に負ければ、国が滅ぶ。それはそうなのですが、じゃあ戦争に勝てば国が栄え、民が潤うのかといえばそうでもないわけで、そういういみでは孫子はものごとの片面しか説明しない。そして、どうやらそのことに自覚的であるようですね。

孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)

2010-09-25

[][][]孫子を読む 作戰篇(その3) 19:37 はてなブックマーク - 孫子を読む 作戰篇(その3) - 蜀犬 日に吠ゆ

敵を殺す者は怒

作戰篇

故殺敵者怒也、取敵之利者貨也、故車戰得車十乗已上、賞其先得者、而更其旌旗、車雜而乗之、卒善而養之、是謂勝敵而強

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 故に敵を殺す者は怒なり。敵の貨を取る者は利なり。故に車戦に十乗已上を得れば、其の先ず得たる者を賞し、而して其の旌旗(せいき)を更(あらた)め、車は雑(まじ)えてこれに乗らしめ、卒は善くしてこれを養わしむ。是れを敵に勝ちて強を益すと謂う。


 そこで、敵兵を殺すのは、ふるいたった気勢によるのであるが、敵の物資を奪い取るのは利益のためである。だから、車戦で車十台以上を捕獲したときには、その最初に捕獲した者に賞として与え、敵の旗じるしを身方のものにとりかえたうえ、その車は身方のものにたちまじって乗用させ、その兵卒は優遇して養わせる。これが敵に勝って強さを増すということである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫
孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)

2010-09-24

[][][]孫子を読む 作戰篇(その2) 19:30 はてなブックマーク - 孫子を読む 作戰篇(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

兵は

作戰篇

善用兵者、役不再籍、糧不三載、取用於國、因糧於敵、故軍食可足也、國之貧於師者遠輸、遠輸則百姓貧、近於師者貴賣、貴賣則百姓財竭、財竭則急於丘役、力屈財殫中原、内虛於家、百姓之費、十去其七、公家之費、破車罷馬、甲冑矢弩、戟楯蔽櫓、丘牛大車、十去其六、故智將務食於敵、食敵一鍾、當吾二十鍾、芑心秆一石、當吾二十石

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 「芑心」はこれで一字。読みは「き」で、豆がらの意。

 善く兵を用うる者は、役は再びは籍せず、糧は三たびは載せず。用を国に取り、糧を敵に因る。故に軍食足るべきなり。国の師に貧なるは、遠師にして遠く輸(いた)せばなり。遠師にして遠く輸さば則ち百姓貧し。近師なるときは貴売すればなり。貴売すれば則ち百姓は財竭(つ)く。財竭くれば則ち丘役に急にして、力は中原に屈(つ)き用は家に虚しく、百姓の費、十に其の七を去る。公家(こうか)の費、破車罷馬、甲冑弓矢、戟楯矛櫓、丘牛大車、十に其の六を去る。故に智将は務めて敵に食む。敵の一鍾を食むは、吾が二十鍾に当たり、芑心秆(きかん)一石は、吾が二十石に当たる。


 戦争の上手な人は、(国民)の兵役は二度と挑発せず、食糧は三度と(国からは)運ばず、軍需品は自分の国のを使うけれども、食糧は敵地のものに依存する。だから、兵糧は十分なのである。国家が軍隊のために貧しくなるというのは、遠征して遠くに食糧を運ぶからのことで、遠征して遠くに運べば民衆は貧しくなる。(また)近くでの戦争なら物価が高くなるからで、物価が高くなれば民衆の蓄えは無くなる。(民衆の)蓄えが無くなれば村から供給する軍役にも苦しむことになり、戦場では戦力は尽きて無くなり、国内の家々では財物がとぼしくなりで、民衆の経費は十のうち七までが減らされる。公家(おかみ)の経費も、戦車がこわれ馬はつかれ、よろいかぶとや弓矢や戟(刃の分かれたほこ)や楯や矛や櫓(おおだて)や、(運搬のための)大牛や大車などの入用で、十のうちの六までを失うことになる。だから、智将は(遠征したら)できるだけ敵の食糧を奪って食べるようにする。敵の一鍾を食べるのは身方の二十一鍾に相当し、豆がらやわら(の馬糧)一石は身方の二十石分に相当するのである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 戦闘よりも兵站を重要視するのは、兵の死因の多くが餓死や伝染病であるためでしょう。あとは破傷風とか。兵站が成り立たなければ、そもそも戦線が維持できないので戦争どころではなくなるわけです。

 ナポレオンは智将と呼んで差し支えないでしょうけれども、ロシア遠征では敵の食糧を奪うのに失敗して敗北しました。孫子なら、燃えるモスクワを見てどうしたでしょうね。

孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)

2010-09-23

[][][]孫子を読む 作戰篇(その1) 19:43 はてなブックマーク - 孫子を読む 作戰篇(その1) - 蜀犬 日に吠ゆ

兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久しいなるを賭ざるなり

作戰篇

孫子曰、凡用兵之法、馳車千駟、革車千乗、帶甲十萬、千里饋糧、則内外之費、賓客之用、膠漆之材、車甲之奉、日費千金、然後十萬之師擧矣、其用戰也、勝久則鈍兵挫鋭、攻城則力屈、久暴師則國用不足、夫鈍兵挫鋭、屈力殫貨、則諸侯乗其弊而起、雖有善其後矣、故兵聞拙速、未賭巧之久也、夫兵久而國利者、未之有也、故不盡知用兵之害者、則不能盡知用兵之利也、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 孫子曰わく、凡そ用兵の法は、馳車千駟・革車千乗・帯甲十万、千里にして糧を饋(おく)るときは、則ち内外の費・賓客の用・膠漆の材・車甲の奉、日に千金を費して、然る後に十万の師挙がる。其の戦いを用なうや久しければ、則ち兵を鈍(つか)らせ鋭を挫く。城を攻むれば則ち力屈(つ)き、久しく師を暴(さら)さば則ち国用足らず。夫れ兵を鈍らせ鋭を挫き、力を屈くし貨を殫(つ)くすときは、則ち諸侯の弊に乗じて起こる。智者ありと雖も、其の後を善くすること能わず。故に兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久しいなるを賭(み)ざるなり。夫れ兵久しくして国の利する者は、未だこれ有らざるなり。故に尽〃く用兵の害を知らざる者は、則ち尽〃く用兵の利をも知ること能わざるなり。


 孫子はいう。およそ戦争の原則としては、戦車千台、輜重車千台、武具をつけた兵士十万で、千里の外に食糧を運搬するというばあいには、内外の経費、外交上の費用、にかわやうるしなどの(武具の)材料、戦車や甲冑の供給などで、一日に千金をも費やしてはじめて十万の軍隊を動かせるものである。(従って、)そうした戦いをして長びくということでは、軍を疲弊させ鋭気をくじくことになって、(それで)敵の城に攻めかければ、戦力も尽きて無くなり、(だからといって)長いあいだ軍隊を露営させておけば国家の経済が窮乏する。もし軍も疲弊し鋭気もくじかれて(やがて)力も尽き財貨も無くなったということであれば、(外国の)諸侯たちはその困窮につけこんで襲いかかり、たとい(身方に)智謀の人がいても、とても(それを防いで)うまくあとしまつをすることはできない。だから、戦争には拙速――まずくともすばやくやる――というのはあるが、巧久――うまくて長びく――という例はまだ無い。そもそも戦争が長びいて国家に利益があるというのは、あったためしがないのだ。だから、戦争の損害を十分知りつくしていない者には、戦争の利益も十分知りつくすことはできないのである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 だから、勝ち続けていても戦いが長びけば負けているも同然。負けそうでもさっさと手を引くことが、負けない要諦、ということになるんですね。

孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)