蜀犬 日に吠ゆ

2009-01-12

[][][]空から女の子がオチ 17:27 はてなブックマーク - 空から女の子がオチ - 蜀犬 日に吠ゆ

 桶屋が死んで取り残された母娘。世話する人があるというので、江戸から下って赤羽へ。

 子供連れでは足も進まず、予定を越えて夜になってしまいました。

 やむを得ず、おいなりさんのお堂を借りて夜露をしのんでおりました。


 草木も眠る丑三つ時。ふいに表に人の声。

 素性も知れぬ荒くれどもが、どうやらお堂に来たらしい。

 娘を起こして逃げる算段、ところが賊は戸を開ける。

 かのとき早く二人は梁へと必死にのぼる。


 げに恐ろしき山賊は、今日も今日とて盗みの準備。

 梁の上では、生きた心地もありません。

 次第に疲れて辛抱たまらず、娘のからだがぐらりとかぶく。

 母はあわてて帯を解き、落ちる娘にゆわえつけ、ぎゃくにはずみで自分が落ちる。

 母の重きに絶えかねて、娘の体は……屋根を貫き天を舞う。


 山賊たちはこれを見て、「たがやぁ~~~」


[][][]鉄の勇気を受けついで 16:15 はてなブックマーク - 鉄の勇気を受けついで - 蜀犬 日に吠ゆ

ギリシア神話 (岩波文庫)

ギリシア神話 (岩波文庫)

 ミーノースはテーセウスとその仲間の逃亡を知って、ダイダロスに罪ありとし、彼とミーノースの女奴隷ナウラクテーとの間に生れた子イーカロスを迷宮内に幽閉した。彼は自分と子供のために翼を作り上げ、(アポロドーロス 高津春繁訳『ギリシア神話』岩波文庫

「イーカロス、翼をきちんとつけたか?」

「はい、ダイダロスお父さん。」

「翼で飛ぶときに、約束を守れるか?」

「はい、ダイダロスお父さん。イーカロスは翼が太陽のためにその膠が溶けて放れないように高みを、また翼が湿気のために放れないよう、海の近くを飛ばぬようにします。」

 生まれたときから迷宮にあり、母親どころか父以外の人間を見たことのないわが子を、ダイダロスは憐れんだ。

「迷宮を抜ければ、世界がある。太陽があり、海がある。おまえはきちんと父の後を飛ぶのだ、イーカロス。」

「はい、ダイダロスお父さん。」

「イーカロス、外へゆけばたくさんの男や女や男女や、牡牛や牝牛や魚や鳥を見ることができる。そうして私たちは仕事を見つけて、生きてゆくのだよ。」

「はい、ダイダロスお父さん。」

「イーカロス、イーカロス、イーカロス」

「外の世界にはたくさんの誘惑がある(太陽や海もそうだが)。イーカロス、私たちは強く生きなければならないのだよ。イーカロス、この暗い迷宮の中で強く生きてゆくために、私はおまえに強い名前を与えた。」

「ダイダロスお父さん、イーカロスの名は私を強くしてくれました。」

「外の世界に出たら、おまえはおまえ自身の名前で生きてゆくのだ。」

 ダイダロスは、ほっと息をついでから告げました。


「おまえは、女の子なのだよ、イーカロセー」


[][][]魔女が空から降ってきた 15:39 はてなブックマーク - 魔女が空から降ってきた - 蜀犬 日に吠ゆ

 空から降ってきたんだと、思う。女の子は1階の屋根から僕の部屋をのぞき込んで、にっこり笑った。可愛い。6年生くらい?

 「誰?」

 質問には答えずに、女の子はベランダのガラス戸から入ってきた。

 ずいぶんと大きかった。僕の身長の何倍もある。

 「あんたは、庭。」気づけば僕は犬だった。


 もうひとり、かっこいい男が入ってきた。

 「人間界で修行だって?僕をおいていくなんてひどいじゃな~~い。」

 「なに、邪魔しに来たの?」

 「逆だよ、この大魔法使いロランドが手伝ってあげるのに」

 女の子はこれも無視して僕の左耳をむしり取った。絶叫してもがいても、彼女は顔色一つ変えなかった。

 「片方がピーンとしてて、もう片方が折れてるようにしたかったんだけど、失敗だわ。」

 窓から放り投げられた。背中を強くうった僕は庭に犬小屋があるのを見つけた。名前プレートまである。「チギレ」と書いてあった。

 台所からママの声がする。

「ナナちゃ~~ん、今へんな音がしなかったぁ?」「なんでもないわ、ママ。」


 見あげると、かっこいい男は、「わかったよ、じゃ、僕は隣の家に住むから」と、窓を飛びだしていった。


 女の子が殺伐としない状況にしてみました。すると周りが無残。これはたしか『西遊記』で、下生した天女に懸想していた神の一人が同じように天から落ちて妖怪となり、転生した天女をかどわかす話。

2009-01-10

[][][]名門!儒林館高校スカイダイビング部! 23:09 はてなブックマーク - 名門!儒林館高校スカイダイビング部! - 蜀犬 日に吠ゆ

断片


 絶対ココロの中だけで叫んだ。

「センパイ!センパイの胸に飛び込みたいんです!高度5000フィートから!」

 あたしは、天使じゃない。でも、天使になるのが夢だった。

 タンデムでしか飛べない初心者だから、絶対笑われるから、誰にもいわないけど、センパイの胸に飛び込むのは、あたし。あたしが最初。


 「そろそろ一年坊もパラシュートを用意しないとなあ。」小野センセイはいちいち嘘くさい台詞を吐く。「一年坊」って、バカか。でも、そんなバカは、嫌いじゃない。あたしのいうことを聞いてくれたら、(センパイとの)結婚式にはよんであげてもいいかも。


 今日も、女の子たちが空から降る。でも、天使なのはあたし。センパイの天使なのは。


(筆者より。記録によれば儒林館高校のスカイダイビング部は「初歩的な事故」で活動を自粛することになる。それが、この手記の女の子やその先輩、あるいは関わりのある人物であるかどうかはつまびらかではない。読者のみなさんで考えていただいてもよかろうと思う。それではこれにて? グート・バイ)


[][][]その後の、もしくはその前の話 23:09 はてなブックマーク - その後の、もしくはその前の話 - 蜀犬 日に吠ゆ

その後の、もしくはその前の話

 いつもの悪夢に落ちてゆく感覚を味わいながら、それを止めることができない。いつもとなんの変わりもない。

 少年のころにもどっている。山の上の小さなほこらで泣いている。一緒にいたはずの兄はいない。ほこらの下の深い穴に落ちてしまったのだ。そのことで泣いているわけではない。自分が明後日の夕方に村の人たちの捜索隊に見つけてもらうまで山の上にいなければならない、そのことで泣いているわけではない。兄弟から目を離したことで折檻を受けたねえやが里へ帰されてしまった、そのことで泣いているわけではない。兄が消えたことで母親は正気を失い、来週には生まれたばかりの妹を釜で煮殺してしまう。そのことで泣いているわけではない。


 深い穴は、待っている。それが恐ろしくて泣いている。


 意識はだんだんと眠りと距離をおき、ホテルの一室にまで戻ってきた。日付のかわるまえでちょうどいい。今から出かければ、誰にも会わずにあの山の上にまで行けるはず。体を起こし、準備をする。毛布でくるんだ、かつて女の子だったものを積みこんだ車を飛ばした。

 あのあと、穴に許してもらうために多くの石や木の枝や、蛙や魚、それからどんなものか分からないがたくさんのものを放り込んだ。小学校を卒業すると教科書もランドセルも。とにかくなにかあればそれは穴に放り込んだ。

 それから、穴に呼ばれることはずっとなかった。はずなのに。


 村を出て、穴のことなど忘れたころ、それは夢に出てくるようになった。また、求めているのだ。何を? 何を求めているのだろう。


 思ったよりも山道に手間取ってしまった。あの頃と変わっていないほこらと、深い穴。ずるずると穴の縁にそれを運ぶと、昔となんにも変わらない、穴は底なしのやみへ呑みこんだ。


 しばらくたって、ほこらが火災になりあの穴はどこかの業者が埋め立てることになったと聞いた。


 小石が落ちて、「おーい、でてこーい」と空から声がした。

2008-07-09

[][]25人の白雪姫 17:15 はてなブックマーク - 25人の白雪姫 - 蜀犬 日に吠ゆ

締め切りに大幅遅れ。なので提出しない。

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 門をくぐってから5kmはつづく専用道路を越え、3重のセキュリティ・チェックをすませて僕は研究所の中に入った。防寒防護服に身を包み、エアロックをくぐった先は氷の世界である。

 静かな、明滅を繰り返すランプと、オープンリール。ここはコンピュータの動作のために比較的室温が高めに設定されている。僕は当直から受け取ったパンチカードをメインコンピュータに差し込んで記録の更新をプログラムした。さらにふたつのハッチを抜け管制室に入った。室(へや)にはいつものセルゲイ教授がいて、いくつもの計器に目を配っている。ソ連科学アカデミー時代からこうだったであろう風景が、今も残っているのだ。研究の結果が出るまで、予定ではあと40年。自分はそれに立ち会うことはないであろうことを考えると何となくも寂しい気持ちがした。

 耐熱対衝撃ガラスの向こうがわにこの研究所の最重要機関がある。われわれが便宜上「白雪姫」と呼んでいる、人工冬眠中の女性たちがカプセルに入って眠っているのだ。(今回の話にはまったく関係ないのだけれども、興味のある人もいると思うので「なぜ女性だけなのか」という疑問に答えたいと思う。白雪姫は極低温に保たれた室で統制された生命維持装置を完備したカプセルで冬眠を行うが、それに使うエネルギーは莫大であり、当時のソ連の予算であっても25人の実験が限界であった。そこで被験者は女性に限られ、男性は冷凍精子の技術開発に特化されたのだ。所用で男性の実験棟に行ったこともあるのだが、魚屋の冷凍庫みたいなところにドラム缶が並んでいるだけのシンプルで男らしい施設であった。ドラム缶にはペンキで「王子のキッス」とラクガキがしてあった。)

 などと馬鹿なことを思い出していると。

 空気は一変した。

「一体いつになったらガス・コジェネレータを導入するつもりなのかしら。」

 女王、とあだ名されているアレクサンドラ=イリノイビッチ研究所長である。女王はまた、国策ガス会社の幹部役員でもあり、この研究所を個人資産で買収したオーナーでもあり、そして独裁者であった。「すべてのエネルギーは、ガスから」という合言葉を掲げ、この研究所の冷却装置をすべてガス由来エネルギーに切り替えようとしている。しかもどこかにエネルギープラントを設置するのではなくて自家発電にしろと条件を付けて。ゆくゆくはこのプロジェクトを世界に発表して、ガス会社の広告に使いたいのだそうだ。

 しかし、冷却施設をすべて交換するためには、一度研究所自体のシステムを更新しなければならず、そのときには一度人工冬眠を停止しなければならなくなる。100年の予定である人工冬眠を急に中断した場合にどのような不測の事態が発生するのかわからない(シュミレーションでは、シミュレーションだったっけか、お姫様たちの死亡する確率が80%を超えてしまう)ので、いままで継続した実験がすべて水泡に帰してしまうリスクを避けるためにコンピュータの入れかえさえ行わなかった研究所にとって、この冒険に賛成することには勇気がいった。ということはつまり、みんななんとかごまかしてガスへの切り替えをせずに女王があきらめてくれるのを待とうとしたのだが、そんなことができる相手ではないことを思い知らされただけだった。

 女王はある種有名人なのでその経歴はあらかた知られている。大統領の覚えよろしく、敏腕な経営者であること。ウクライナで育ち、家族すべてをチェルノブイリで失い、原子力や発電所を憎んでいること。萌えるような赤毛の色にふさわしい激しい気性の持ち主で、いったん言いだしたことを曲げたりはしないこと。目的のためには手段も費用も惜しまず完遂してきたこと、など。

 結局、女王の要求を受けて、若手(いちおう僕などもそこには入っている)を中心に計画書を作成したが、その五カ年計画というのが受け入れられるはずもないことは、所員の誰もが承知であった。計画では研究所自体を一回り大きな隔壁ですっぽりと覆い、冷却して、その内側で新しい研究所を建て直すというものであったからだ。鞘堂を造るという発想自体がご存じチェルノブイリの「棺桶」から来ているとしては女王の不興を買うに決まっている。女王はこれを当てこすりと解釈したらしく、研究所の閉鎖さえちらつかせて自分の意見を通そうとしている。それはつまり、白雪姫の命を奪えと言うことにもつながるのだが。

「計画が不適切だ、とのご判断は承っております。」教授は答えた。「運営委員会でもいくつかの論点は出ていましたから、なおすべき点はきちんと精査しまして」

 女王は「時間稼ぎはたくさんよ」と教授の言葉を遮った。「結論は、もうでているの。あとはそれを実行に移すかどうかの話」

「原子力はきれいなエネルギーだなんて、みんなほめるけど」女王の瞳はまるで燃えているかのようにゆらめき、口から漏れる息が白くなるのは炎を噴き出す前兆かとも思えるほどだった…というのは言い過ぎかもしれないがとにかく「あたしは認めない。ガスこそ美しい、というかこの世で一番きれいなエネルギーはガスでなければならないのよ。それができないというのなら、あたしにも考えがあるわ。」

「しかし」教授が何か言おうとすると女王がたたみかけた。「あんたたちはあたしの言うことを聞けばいいの。」

 教授ピンチである、などとわきで見ていたら、女王は突如僕の方に向き直った。これは予想外。というか自分は下っ端なので女王と今まで話したことはない(企画書や文書も主任を通してしかやりとりしていない)し、僕の立場なら口を出すようなことはないと思っていたからだ。

「あんた、何をニヤニヤしてるわけ?」にやけ顔は生まれつきなのだが、そういえば中学のころ、そんな風に因縁をつけられたことがあったなあ。ネオナチが教室で同級生から金をせびっているうしろを通り過ぎようとしたら、「ニヤニヤしとんじゃねェぞコラァ」と脇腹を蹴られた。いじめを見て見ぬふりするのはよくないことだと思ったけれど、この事件があってからは自分の身に危険が及ぶしなあ、と他人を見殺しにする良心の呵責がずっと薄らいだものだった。

「人の話を真剣に聞きなさい!」女王はしだいにいらいらした口調になってきた。僕は「申し訳ありません。」とこたえて頭を下げた。

「あんた、わかってるのかしら。あたしが所長なのよ。あたしが決定したことが、最優先事項なのよ。」「はい、その通りだと思います。」

「じゃあ、きちんと口に出していって見なさいよ、鏡の反射のように、きっちり正確にね。」女王がどうしてこんな譬喩をおりまぜたのか、僕にはさっぱりわからなかったが、その言葉は僕をspellboundした。(うーんと、spellboundには「女性の魅力にいかれちまった」という意味もあるんだけれど、この場合はそういうニュアンスは含めずに解釈してほしい。もしフロイド先生が「そういうニュアンスも含めての意味だよ」ってゆったらそっちが正しいとは思うけど。)

「じゃあ、答えなさいよ、この研究所で一番偉いのは誰?誰なの?」

「それは…」あなたです、と首まで出かけたことばを僕は発することができなかった。

代わりに出て来た言葉は、僕の言葉でありながらそういう実感はまったくわかなかった。

「確かにあなたは、研究所の所長であります。しかし、」

「白雪姫プロジェクトの方が、あなたよりももっと優先されるべきです。」

 一瞬で、場が凍った。

 いやもともと氷点下であったわけだが、そういう意味ではなくて、というかまあなんだ、僕に文学的素養は求めないでもらいたいわけであり、なんというか、おそろしくて女王の顔を見ることもできずにじっと地面を見つめていた。

 これでいよいよ退職か。僕はぼんやりと考えていた。実感はなかったが、再就職に対する漠然とした不安が胸の中に盛り上がってくるのを静かに観察することはできた。中途半端に年をとり、マシン語で4ビットのコンピュータを動かすことしかできない学士(動物学)に、今時就職先などあるだろうか。いやまあ、なんつーの、別に大学出ているから職業は選ばせてもらうよ、みたいに思っているわけじゃなくて、そういう話じゃなくて、自分に何ができるかわからない、ということ。モスクワのうどん屋で臨時雇用されるというなら、それはそれでいいんだ。

「コンニチハ」

 すっとんきょう、というか間抜けな挨拶をして一人の男が管制室に入ってきた、つづいてもう一人。(一人目はわれわれと同じ防寒防護服だが、二人目は兵士用の防寒具に身を包んでいて、マシンガンを持っている。)つづいてもう一人(これも武装している)、というところまで数えたが、さらにわらわら兵士が入ってきたので数えるのは面倒くさくなった。たぶん7,8人くらいだろう。

「革命デス」

「いや、今取り込んでいるのでねえ」教授も間抜けな答えを返した。女王はその点しっかりしている。「あんたたち、誰?誰の許可を受けてここに入ってきたの?」

「我々ハ革命政府軍デス。ソシテ私ハ赤軍第1423軍(重装歩兵)部隊長」間抜けな男はひどいオイミャコン訛りのあるロシア語で答えた。「ぶるじょわじー政権ヲ粉砕シテスベテノ権力ヲそう゛ぃえとニ集中スル、ろしあノ人民ヲ救ウタメニハ革命シカアリマセンデシタ」

 隊長は向き直って女王に告げた。「アナタノゴ活躍ハ聞イテオリマス」にこにこ(僕の場合はニヤニヤととられるのに、こういう朴訥な風貌のやつは逆に得をしていると思った)しながら「アナタノ赤毛ハ美シイガソレ以外ノ部分ハ残念デス。」

「我々ノ新政府ガしべりあニタイヘンイイ学校ヲツクリマシタ。ソコデ靴ノ先マデ真ッ赤ニナレマスヨ」女王は黙っていた。その瞳には恐怖の色が浮かんでいた。閉鎖都市に送られるとは、最低だ。この人の人生は、結局ずーっと「どん底」だったんだな、と僕は思ったが、二人の兵士が彼女を両脇から追い立てて言った。

「デハ万歳ヲシマショウ」隊長はふたたび間抜けなことを言った、などと心中思惟を見破られては大変なので、ここは革命的尊敬を内に秘めたかたちで対話しなければならない。ことは慎重を要する。

「万歳ですって?」と僕は革命的疑問を持って尋ねた。「唐突ですね。」革命的付け加えを忘れずに。

「ソウデス。最後ハ「メデタシメデタシ」デ終ワルノガオトギ話(ぷろれたりあ政権ニヨル平等ノ実現、平和ノ到来ナンテイウ荒唐無稽ノコトデスヨ)ノ宿命ナンデス」

 それで僕たちはみんな万歳をした。革命万歳。赤軍万歳。プロレタリア独裁万々歳。

(おわり)

(追記)よく考えたら白雪姫もあんまり関係なかった。

2007-06-24

[]001 あやしい手紙 23:39 はてなブックマーク - 001 あやしい手紙 - 蜀犬 日に吠ゆ

「というのが事件の顛末だったわけさ。」

私の友人であり、また伝説の男の友人でもあるJ・H・ウィルソンは言葉を切った。

「また、ショルメ先生の大活躍だったのですね。ウィルソン博士。」

「ロンドン市民はこれで悪党のうろつく恐怖に怯えなくて住みますね。」

「まあ、大抵そうだとは言えるだろうね。」

博士はじっと、私のことを見つめた。

「アーサー。君はまた、これを発表しようとしているね。」

「真実を伝えるのが、いまでは私の使命であると自負するようになりました。もちろん、」と、私は言葉を切り、断言した。

「博士、そしてその大切なご友人であるショルメ先生の心配なさるところは了解しています。事件の場所や年代、関係した人物はもちろん、お二人が特定されるなどということのないように配慮させていただきます。」

「シャーロック・ホームズか」

「アナグラムでつくったにしては上出来の名前だね。」

暖炉で勢いよく薪がはぜった。しばらくの沈黙ののち、私はもう幾度となく繰り返した言葉を、性懲りもなく口にした。

「私が、ショルメ先生にお会いすることはできないのでしょうか。」

「そのことなら、何度も言ったよ、アーサー。彼は極度の人嫌いだ。(僕は何度もそういったし、君は何度もそれを書いたはずだ。)彼は自分の手法を公開することで、悪を滅ぼす知恵と技術を持った人が一人でも増えればいいと願っている。君が考えるように、社交界よろしく文壇デビューして時の人になろうとするのは、ショルメも僕も望むところではないよ。」

「しかし」

「しかしもかかしもないよ」

「でも」

「デモもストライキもないよ」

「ら、フランス」

「洋なし(用なし)だよ。」

「?」博士は自分で自分のツッコミに驚いたようだ。「アーサー、大丈夫か。気が変になったのじゃあないか(降霊術は控えめに、と忠告したはずだがなあ)」

「違いますよ、博士、今朝私のところに届いた雑誌があるのですが。」

「なんだ、『ジュセトゥ』?ルブランの件は確か君に任せてあったね。」

「ええ、ホームズの名前を使用するなという抗議を受けて、改訂された版が出たようなのですが、見てください。」「これは……」「エルロック・ショルメ、ウィルソン。あのフランス野郎、どうしてこんなことを知り得るんだろう。」

「これは早急にショルメに伝えるべきだな。いや、だがしかし、偶然とは…考えられん。」

「博士、一つ私の考えを述べてもよろしいでしょうか。」「もちろん」

「このルブランの、いわゆる登場人物なのですけれども、「アルセーヌ=ルパン」、の仕業ではないかとは考えられませんか。」

「君は、実に、馬鹿だ。あの作品を読んだならばそんなことはいえまいよ、実に荒唐無稽で噴飯笑止、フィクションとしてだって出来のいい物ではない。」

「いえ、ですからこれは、私も同じ作家の立場ですから(ホームズ物は「ノンフィク」ですがこれで結構SFとかも書いているんです)、ルパンそのものはいやしないにしても、そのモデルとなる犯罪組織なりがあって、ルブランはその手先であるという考え方もできるのではないでしょうか。」

「まあ、いかにも作家らしい意見だねえ。チャレンジャア教授。仮説も実にチャレンジングだ。」

「僕はすぐバーカー街に戻るよ。」

ウィルソン博士は帰り支度を済ませると自ら玄関の扉を開いて、夜のロンドンの空気を吸った。

「ありゃりゃ、こりゃなんだい。」すぐに素っ頓狂な声が聞こえたので私も玄関口に出てみると、これは、子ヤギの死体が血まみれでつるされている。

「博士、こ、これはいったい」

「ううん、ブードゥ教の儀式に使われているものに似ているが…はて」

というと博士は死体にピンで留められているカードをはずし、部屋から漏れる明かりで文面を照らした。

「麗しき友情に アルセーヌ=ルパン」

こうして(後になって振り返ってみると)長々しい夜が始まったのであった。

2007-06-16

[]若い翼は 23:45 はてなブックマーク - 若い翼は - 蜀犬 日に吠ゆ

小さな頃、僕は宝物を高い木の上に隠していた。

何故って、僕は空を飛ぶことができたから、誰にも手の届かないところに宝物を隠すことができたのだ。

宝物のことも、空を飛べることも、僕だけの秘密だった。

ある時、僕が宝物を隠してある梢に座っていると、友達が空を飛んできた。「おい、おまえ、いいものもってんなあ」

僕は、宝物を見られたことよりも、背中の翼から羽が落ちていくのを感じてめまいがした。

飛べるのは、僕だけじゃあなかった。

それ以来、僕はずっと地をはい回り、そうすることで醜い自尊心を満足させている。

2007-06-12

[]大乗ハルマゲドン 20:13 はてなブックマーク - 大乗ハルマゲドン - 蜀犬 日に吠ゆ

船着き場で荷担ぎの声がかかるのをぼんやりと待って座り込んでいたら趙小生が駆け込んできた。

「兄キィ、大変だ」

こいつの大変が本当に大変だった試しはないので軽く答えた。

「落ち着け、馬鹿」

「落ち着けませんよ、兄キ、蔡先生が関員外につかまっちまった」

蔡先生というのは趙の通っている塾の先生で、挙人にまでなった人だが、体をこわして仕官でき無かった人だ。

おれも時たま窓の外で講義を聴いたことがある。無害そうなじいさんではある。俺にわかるはずもないが蔵書の量はなかなかのものらしい、と袁の隠居もいっていた。趙もそうだがこの辺でちっと小金があって科挙を目指そうというヤツは蔡先生のところへ通う。

(関は家庭教師を呼んでも生員にさえなれなかった。だから買官で威張り散らしているんだ。)


通りに出ると、まさしく蔡先生が縄うたれて関員外に連行されている。

どうやら目抜き通りを見せびらかすつもりらしい。

おれと、趙と、ほか何人かの塾生は何となくあつまり、関員外をにらんでいた。

関はそれに気づいたと見え、馬を止めた。先生も止まる。馬に当てる鞭が先生に向かってふられ、高い音を立てた。

おれは関員外に向かっていってやった。

「おい、たとい嫌疑があるにせよ、士人にたいしてのこの態度はないだろう。先生は…」

挙人、と言おうとして関員外の満面の笑みを見た俺は口をつぐんだ。

関員外は、せせら笑った。

「馬鹿か。おまえ。」

「こんな田舎爺が郷試にだって合格するかよ。いいか、皇帝陛下は慈愛あまねくお方だからな、高齢の受験者には形だけ合格発表を出すんだよ」

この瞬間は、関員外にとって待ちに待った場面なのだろう。大声で繰り返した。

「挙人様なんていえた立場かよ。おまえらもかわいそうになあ。こんなインチキ合格者に束脩を納めたって、せいぜい長生きのこつぐらいだぜ、この能なしが教えられるのは。」

つばを吐いた。蔡先生はずっと無表情を変えなかった。

荒々しく縄を引くと、閑は先生を連れて行った。

「先生、どうなっちゃうんだろう」「だいたい、なんで捕縛されるんだよ」

趙はじっと下を向いていたが、塾仲間の視線を受けて、口を開いた。

「おれ、聞いちゃった。」

「なんだよ、さっさと言えよ。」

「『下生経』だって。」「意味はわからないけど、先生は仏教の本を持ってたんだって。」

「それが御禁制だったわけか」

「おい、小生」おれは声をかけた。先生の運命はわからん。おれにわかるのは、この街がますます嫌なところになるだろう、ってことだけだ。「おれ、もう仕事に戻るわ。またなんかあったら教えてくれよ」

前兆のようなものはなかった。


もし、いまあのときに戻ったら、違った光景が見えただろうか。おれたちの未来は変えることができただろうか。

「よし、土を入れよ。」将軍の指示がかかった。弥勒下生を称して帝室に叛旗を翻した「大仏会」蔡玄郎以下2000名は、ことごとく抗殺された。