蜀犬 日に吠ゆ

2010-10-30

[][][]孫子を読む 虚實篇(その7) 15:23 はてなブックマーク - 孫子を読む 虚實篇(その7) - 蜀犬 日に吠ゆ

虚實篇

夫兵形象水、水之形、避高而趨下、兵之形、避實而撃虚、水因地而制流、兵因敵而制勝、故兵無常勢、水無常形、能因敵變化而取勝者、謂之神、(故五行無常勝、四時無常位、日有短長、月有死生、)

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 夫れ兵の形は水に象る。水の行は高きを避けて下(ひく)きに趨(おもむ)く。兵の形は実を避けて虚を撃つ。水は地に因りて流れを制し、兵は敵に因りて勝を制す。故に兵に常勢なく、水に常形なし。能く敵に因りて変化して勝を取る者、これを神という。(故に五行に常勝なく、四時に常位なく、日に短長あり、月に死生あり。)


 そもそ軍の形は水の形のようなものである。水の流れは高いところを避けて低い所へと走るが、(そのように)軍の形も敵の備えをした実の所を避けてすきのある虚の所を攻撃する。水は地形のままに従って流れを定めるが、(そのように)軍も敵情のままに従って勝利を決する。だから、軍にはきまった勢いというものが無く、水にはきまった形というものが無い。うまく敵情のままに従って勝利をかちとることのできるのが、(はかり知れない)神妙というものである。(そこで、木・火・土・金・水の五行の五行にもいつでも勝つというものは無く、春・夏・秋・冬の四季にもいつでも止まっているというものは無く、日の出る間にも長短があり、月にも満ち欠けがある。)

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

2010-10-20

[][][]孫子を読む 虚實篇(その6) 19:57 はてなブックマーク - 孫子を読む 虚實篇(その6) - 蜀犬 日に吠ゆ

無形に至る

虚實篇

故形兵之極、至於無形、無形、則深間不能窺、智者不能謀、因形而錯勝於衆、衆不能知、人皆知我所以勝之形、而莫知吾所以制勝之形、故其戰勝不復、而應形於無窮、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 故に兵を形(あらわ)すの極は、無形に至る。無形なれば、則ち深間も窺うこと能わず、智者も謀ること能わず。形に因りて勝を錯(お)くも、衆は知ること能わず。人皆な我が勝の形を知るも、吾が勝ちを制する所以の形を知ること莫し。故に其の戦い勝つや復(くりかえ)さずして、形に無窮に応ず。


 そこで、軍の形(態勢)をとる極地はは無形になることである。無形であれば深く入りこんだスパイでもかぎつけることができず、智謀すぐれたものでも考え慮ることができない。(あいての形がよみとれると、)その形に乗じて勝利が得られるのであるが、一般の人々にはそれを知ることができない。人々はみな身方の勝利のありさまを知っているが、身方がどのようにして勝利を決定したかというそのありさまは知らないのである。だから、その戦ってうち勝つありさまには二度とはくりかえしが無く、あいての形のままに対応して窮まりがないのである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

2010-10-18

[][][]孫子を読む 虚實篇(その5) 20:04 はてなブックマーク - 孫子を読む 虚實篇(その5) - 蜀犬 日に吠ゆ

故にこれを策りて得失の計を知り

虚實篇

故策之而知得失之計、作之而知動靜之理、形之而知死生之地、角之而知有餘不足之處、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 故にこれを策(はか)りて得失の計を知り、これを作(おこ)して動静の理を知り、これを形(あらわ)して死生の地を知り、之に角(ふ)れて有余不足の処を知る。


 そこで、(戦いの前に敵の虚実を知るためには、)敵情を目算してみて利害損得の見積りを知り、敵軍を刺戟して動かせてみてその行動の規準を知り、敵軍のはっきりした態勢を把握してその敗死すべき地勢と敗れない地勢とを知り、敵軍と小ぜりあいをしてみて優勢な所と手薄な所とを知るのである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

2010-10-17

[][][]孫子を読む 虚實篇(その4) 19:39 はてなブックマーク - 孫子を読む 虚實篇(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

我れに形無ければ、則ち我れは専まりて一と為り

虚實篇

故形人而我無形則我專而敵分、我專爲一、敵分爲十、是以十攻其一也、則我衆而敵寡、能以衆撃寡者、則吾之所與戰者約矣、吾所與戰之地不可知、不可知、則敵所備者多、敵所備者多、則吾所與戰者寡矣、故備前則後寡、備之地則前寡、備左則右寡、備右則左寡、無所不備、則無所不寡、寡者備人者也、衆者使人備己者也、故知戰之地、知戰之日、則可千里而會戰、不知戰地、不知戰日、則左不能救右、右不能救左、前不能救後、後不能救前、而況遠者數十里、近者數里乎、以吾度之、越人之兵雖多、亦奚益於勝敗哉、故曰、勝可爲也、敵雖衆、可使無鬭、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 故に人を形せしめて我れに形無ければ、則ち我れは専(あつ)まりて一と為り敵は分かれて十と為らば、是れ十を以て其の一を攻むるなり。則ち我れは衆にして敵は寡なり。能く衆を以て寡を撃てば、則ち吾が与に戦う所の者は約なり。吾が与に戦う所の地は知るべからず、吾が与に戦う所の日は知るべからざれば、則ち敵の備うる所の者多ければ、則ち吾が与に戦う所の者は寡なし。故に前に備うれば則ち後寡なく、後に備うれば則ち前寡なく、左に備うれば則ち右寡なく、右に備うれば則ち左寡なく、備えざる所なければ則ち寡なからざる所なし。寡なき者は人に備うる者なればなり。衆き者は人をして己れに備えしむる者なればなり。故に戦いの地を知り戦いの日を知れば、則ち千里にして会戦すべし。戦いの地を知らず戦いの日を知らざれば、則ち左は右を救うこと能わず、右は左を救うこと能わず、前は後を救うこと能わず、後は前を救うこと能わず。而るを況んや遠き者は数十里、近き者は数理となるをや。吾れを以てこれを度るに、越人の兵は多しと雖も、亦た奚(なん)ぞ勝に益せんや。敵は衆しと雖も、闘い無からしむべし。


 そこで、敵にははっきりした態勢をとらせて(虚)、こちらでは態勢を隠して無形だ(実)というのであれば、こちらは(敵の態勢に応じて)集中するが敵は(疑心暗鬼で)分散する。こちらは集中して一団になり敵は分散して十隊になるというのであれば、その結果はこちらの十人で敵の一人を攻めることになる。つまりこちらは大勢で敵は小勢である。(そして)大勢で小勢を攻撃してゆくことができるというなら、こちらの戦いのあいては(いつも)弱小である。こちらが戦おうとする場所も敵には分からず、こちらが戦おうとする時期も敵には分からないとすると、敵はたくさんの備えをしなければならず、敵がたくさんの備えをすると、(その兵力を分散することになるから、)こちらの戦いのあいては(いつも)小勢になる。だから、前軍に備えをすると後軍は小勢になり、後軍に備えをすると前軍が小勢になり、左軍に備えをすると右軍が小勢になり、右軍に備えをすると左軍が小勢になり、どこもかしこも備えをしようとすると、どこもかしこも小勢になる。小勢になるのはあいてに備えをする立場だからである。大勢になるのはあいてをこちらのために備えさせる立場だからである。そこで、戦うべき場所が分かり、戦うべき時期が分かったなら、遠い道のりでも(はせつけて主導権を失わずに)合戦すべきである。戦うべき場所も分からず、戦うべき時期も分からないのでは、左軍は右軍を助けることができず、右軍も左軍を助けることができず、前軍は後軍を助けることができず、後軍も前軍を助けることがでkない。(同じ軍団の中でもこうだから、)ましてや遠い所では数十キロ、近い所でも数キロ先の友軍には、なおさらのことである。わたしが考えてみるのに、越の国の兵士がいかに数多くても、とても勝利の足しにはならないだろう。敵はたとい大勢でも(虚実のはたらきでそれを分散させて)戦えないようにしてしまうのだ。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

2010-10-16

[][][]孫子を読む 虚實篇(その3) 23:07 はてなブックマーク - 孫子を読む 虚實篇(その3) - 蜀犬 日に吠ゆ

進みて禦ぐべからざる者は、其の虚を衝けばなり

虚實篇

進而不可禦者、衝其虚也、退而不可追者、速而不可及也、故我欲戰、敵雖高壘深溝、不得不與我戰者、攻其所必救也、我不欲戰、畫地而守之、敵不得與我戰者、乖其所之也、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 進みて禦(ふせ)ぐべからざる者は、其の虚を衝けばなり。退きて追うべからざる者は、速かにして及ぶべからざればなり。故に我れ戦わんと欲すれば、敵 塁を高くし溝を深くすと雖も、我れと戦わざるを得ざる者は、其の必らず救う所を攻むればなり。我れ戦いを欲せざれば、地を画してこれを守ると雖も、敵 我れと戦うことを得ざる者は、其の之く所に乖(そむ)けばなり。


 進撃したばあいにそれを防ぎ止めることのできないのは、すばやくて追いつけない(進撃だ)からである。そこで、こちらが戦いたいと思うときには、すばやくて追いつけない(後退だ)からである。そこで、こちらが戦いたい思うときには、敵がたとい土塁を高く積み上げ堀を深く掘って(城にこもって戦うまいとして)も、どうしてもこちらと戦わなければならないようになるのは、敵が必らず救いの手を出す所を(こちらで)攻撃するからである。こちらが戦いたくないと思うときには、(土塁を積んだり堀を掘ったりして固めるまでもなく)地面に区切りを画いて守るだけでも、敵にはこちらと戦うことができないというのは、敵の向かう所をはぐらかすからである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

2010-10-15

[][][]孫子を読む 虚實篇(その2) 19:06 はてなブックマーク - 孫子を読む 虚實篇(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

微なるかな微なるかな、無形に至る

虚實篇

出其所不趨、趨其所不意、行千里而不勞者、行於無人之地也、攻而必取者、攻其所不守也、守而必固者、守其所不攻也、故善攻者、敵不知其所守、善守者、敵不知其所攻、微乎微乎、至於無形、神乎神乎、至於無聲、故能爲敵之司命、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 其の必らず趨く所に出で、其の意(おも)わざる所に趨き、千里を行いて労(つか)れざる者は、無人の地を行けばなり。攻めて必らず取る者は、其の守らざる所を攻むればなり。守りて必らず固き者は、其の攻めざる所を守ればなり。故に善く攻むる者には、敵 其の守る所を知らず。善く守る者には、敵 其の攻むる所を知らず。微なるかな微なるかな、無形に至る。神なるかな神なるかな、無声に至る。故に能く敵の司命を為す。


 敵がきっとはせつけて来るような所に出撃し、敵の思いもよらない所に急進し、(そのようにして)遠い道のりを行軍して疲れないというのは、(敵の間隙をぬって)敵対する者のない土地を行軍するからである。攻撃したからにはきっと奪取するというのは、敵の守備していない所を攻撃するからである。守ったからにはきっと堅固だというのは、敵の攻撃しないところを守るからである。攻撃の巧みな人には、敵はどこを守ったらよいのか分からず、守備の巧みな人には、敵はどこから攻めたらよいのか分からない。微妙、微妙、最高は無形だ。神秘、神秘、最高は無音だ。そこで敵の運命の主宰者になることができるのだ。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫