蜀犬 日に吠ゆ

2010-09-22

[][][]孫子を読む 計篇(その4) 20:00 はてなブックマーク - 孫子を読む 計篇(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

未だ戦わずして廟算して勝つ者

計篇

夫未戰而廟算勝者、得算多也、未戰而廟算不勝者、得算少也、多算勝、少算不勝、而況於無算乎、吾以此觀之、勝負見矣、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 夫れ未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり。未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算なきに於いておや。吾れ此れを以てこれを観るに、勝負見(あら)わる。


 一体、開戦の前にすでに宗廟(おたまや)で目算して勝つというのは、(五事七計に従って考えた結果、)その勝ちめが多いからのことである。開戦の前にすでに宗廟で目算して勝てないというのは、(五事七計に従って考えた結果、)その勝ちめが少ないからのことである。勝ちめが多ければ勝つが、勝ちめが少なければ勝てないのであるから、まして勝ちめが全く無いというのではなおさらである。わたしは以上の(廟算という)ことで観察して、勝敗をはっきり知るのである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 「ここまで行けば勝ち」という大目標に対して、第一段階、第二段階という少目標を設定し、実践の前によく吟味しておくということでしょう。それなしに「とりあえず」で戦端を開いても、それは戦争とすらよべないものになってしまいます。

 国家間ではなくとも、個人個人のレベルでも十分気をつけなければならないことではあります。

孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)

2010-09-21

[][][]孫子を読む 計篇(その3) 20:00 はてなブックマーク - 孫子を読む 計篇(その3) - 蜀犬 日に吠ゆ

兵とは詭道なり

計篇

兵者詭道也、故能而示之不能、用而示之不用、近而示之遠、遠而示之近、利而誘之、亂而取之、實而備之、強而避之、怒而撓之、卑而驕之、佚而勞之、親而離之、攻其無備、出其不意、此兵家之勝、不可先傳也

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 兵とは詭道なり。故に、能なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示し、近くともこれを遠きに示し、遠くともこれに近きを示し、利にしてこれを誘い、乱にしてこれを取り、実にしてこれに備え、強にしてこれを避け、怒にしてこれを撓(みだ)し、卑にしてこれを驕らせ、佚にしてこれを労し、親にしてこれを離す。其の無備を攻め、其の不意に出ず。此れ兵家の勢、先きには伝うべからざるなり。


 戦争とは詭道――正常なやり方に反したしわざ――である。それゆえ、強くとも敵には弱く見せかけ、勇敢でも敵にはおくびょうに見せかけ、近づいていても敵には遠く見せかけ、遠方にあっても敵には近く見せかけ、(敵が)利を求めているときはそれを誘い出し、(敵が)混乱しているときはそれを奪い取り、(敵が)充実しているときはそれに防備し、(敵が)強いときはそれを避け、(敵が)怒りたけっているときはそれを疲労させ、(敵が)親しみあっているときはそれを分裂させて、敵の無備を攻め、敵の不意をつくのである。これが軍学者のいう勢であって、(敵情に応じての処置であるから、)出陣前にはあらかじめ伝えることのできないものである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 だとすると、出陣の時には各部隊の長にはいったいどういう説明をするのでしょうね。戦闘の目的と、撤退のタイミングくらいを合わせておいて、あとは敵に応じて行き当たりばったりということ?

孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)


 しかしこういうのは、マネジメント理論などと同じで相手もおなじ手法をとってきたらどうするのか、司馬仲達と諸葛孔明みたいに延々戦いつづけることになってしまう、という点で、技術論ではあっても哲学ではない。孟子のように、戦争などしなくても他国の民が王をしたって集まってくる、というほうが優れています……もちろん、実現できればの話ですけど! 理想論ですけど!

2010-09-20

[][][]孫子を読む 計篇(その2) 20:51 はてなブックマーク - 孫子を読む 計篇(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

将 吾が計を聴くときは、これを用うれば必らず勝つ

計篇

將聽吾計、用之必勝、留之、將不聽吾計、用之必敗、去之、計利以聽、乃爲之勢、以佐其外、勢者因利而制權也、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 将 吾が計を聴くときは、これを用うれば必らず勝つ、これを留めん。将 吾が計を聴かざるときは、これを用うれば必らず敗る、これを去らん。計、利として以て聴かるれば、乃ちこれが勢を為して、以て其の外を佐(たす)く。


 将軍がわたしの(上にのべた五事七計)はかりごとに従うばあいには、彼を用いたならきっと勝つであろうから留任させる。将軍がわたしのはかりごとに従わないばあいには、彼を用いたならきっと負けるであろうから辞めさせる。はかりごとの有利なことが分かって従われたならば、(出陣前の内謀がそれで整ったわけであるから、)そこで勢ということを助けとして(出陣後の)外謀とする。勢とは、有利な情況(を見ればそれ)にもとづいてその場に適した臨機応変の処置をとることである。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫
孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)

2010-09-19

[][][]孫子を読む 計篇(その1) 22:34 はてなブックマーク - 孫子を読む 計篇(その1) - 蜀犬 日に吠ゆ

兵は国の大事

計篇

孫子曰、兵者國之大事、死生之地、存亡之道、不可不察也、故經之以五事、校之以計、而索其情、一曰道、二曰天、三曰地、四曰將、五曰法、道者令民與上同意也、故可以與之死、可以與之生、而不畏危、天者陰陽寒暑時制也、地者遠近險易廣狹死生也、將者智信仁勇嚴也、法者曲制官道主用也、凡此五者、將莫不聞、知之者勝、不知者不勝、故校之以計、而索其情、曰主孰有道、將孰有能、天地孰得、法令孰行、兵衆孰強、士卒孰練、賞罰孰明、吾以此知勝負矣、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 孫子曰わく、兵とは国家の大事なり、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。故にこれを経(はか)るに五事を以てし、其の情を索(もと)む。一に曰わく道、二に曰わく天、三に曰わく地、四に曰わく将、五に曰わく法なり。道とは、民をして上と意を同じうし、これと死すべくこれと生くべくして、危(うたが)わざらじむるなり。天とは、陰陽・寒暑・時制なり。地とは遠近・険易・広狭・死生なり。将とは、智・信・仁・勇・厳なり。法とは、曲制・官道・主用なり。凡そ此の五者は、将は聞かざること莫きも、これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。故にこれを校(くら)ぶるに計を以てして、其の情を索む。曰わく、主 孰れか有道なる、将 孰れか有能なる、天地 孰れか得たる、法令 孰れか行なわる、兵衆 孰れか強き、士卒 孰れか練(なら)いたる、賞罰 孰れか明らかなると。吾れ此れを以て勝負を知る。


 孫子はいう。戦争とは国家の大事である。(国民の)死活がきまるところで、(国家の)存亡のわかれ道であるから、よくよく熟慮せねばならぬ。それゆえ、五つの事がらではかり考え、(七つの)目算で比べあわせて、その場の実情を求めるのである。(五つの事というのは、)第一は道、第二は天、第三は地、第四は将、第五は法である。(第一の)道とは、人民たちが上の人と同じ心になって、死生をともにして疑わないようにさせる(政治の)ことである。(第二の)天とは、陰陽や気温や時節(などの自然界のめぐり)のことである。(第三の)地とは、距離や険しさや広さや高低(などの土地の状況)のことである。(第四の)将とは、才智や誠信や仁慈や勇敢や威厳(といった将軍の人材)のことである。(第五の)法とは、軍隊編成の法規や官職の治め方や主軍の用度(などの軍制)のことである。およそこれら五つの事は、将軍たる者はだれでも知っているが、それを深く理解している者は勝ち、深く理解していない者は勝てない。それゆえ、(深い理解を得た者は、七つの)目算で比べあわせてその場の実情を求めるのである。すなわち、君主は(敵と身方とで)いずれが人心を得ているか、将軍は(敵と身方とで)いずれが有能であるか、自然界のめぐりと土地の情況とはいずれに有利であるか、法令はどちらが厳守されているか、軍隊はどちらが強いか、士卒はどちらがよく訓練されているか、賞罰はどちらが公明に行われているかということで、わたしは、これらのことによって、(戦わずにしてすでに)勝敗を知るのである。

<

孫子 (1963年) (岩波文庫)

孫子 (1963年) (岩波文庫)